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​LESSON1

罰を与えないで行動は改善されるの?

「危険な犬種だから、これぐらいしないとダメなんだ。人に危害を加えないように。」と、よく聞きます。そして犬に罰を与えてる姿をよく目にします。

ここで言う罰とは、痛みを伴う罰や、大きな物音を立てる、ひっくり返して服従ポーズを取らせる、など、一時的・あるいは永続的に行動を減らす刺激を与えることです。

ようやくこのような罰を与えるトレーニングが少し減って来たかな…と感じるものの、まだ日本では広まりが浅い気がします。

上記で述べた痛みを伴う、無理に服従させるような罰を与えるとどのような犬に育つリスクがあるのか、説明します。

先にお伝えしたいことは、罰を与えるより報酬(正確に言うと強化子)を与えるトレーニング(提示型強化)を行う方が早く学習は成立します。これは研究結果がきちんと出ています。

まず、攻撃性と恐怖は罰を与えるトレーニングと関連しているということが研究で分かっています。

この関連性は、私も実感しています。犬の攻撃性に困っている相談で過去を聞いてみると、見事に結びついているケースが非常に多いです。

’以前チョークチェーンを使用しトレーニングをしていた’

’厳しい訓練所に預けていた’

’前に頼んでいたトレーナーは犬に体罰をしていた’

多くの犬がこのような経験をしていました。テレビでよく罰を与えるトレーニングを目にしますが、犬のその後…というのはテレビでは放送されません。即時性があるので、すぐに行動が変わったように見えます。SNSでは反響がありそうですよね。

次に、罰を使用するトレーニングをすることで犬は受身状態になり、自分から何か行動することが起こらなくなる傾向にあります。犬の自主性、創造性を身に付けることが出来なくなります。この”行動することが出来なくなっている状態”を多くの方は”落ち着いた”と表現します。

そのような状態では新しい望ましい行動の学習には繋がりません。

常に上司に怒鳴られてばかりの毎日…いうことを聞かなければ何をされるか分からない…そんなストレス状態が続いているのと同じようなことです。

更には学習能力の低下、記憶力の低下、別の問題行動の発生、ストレスにより免疫のシステムが低下する、など様々な問題が起きます。回避行動として更に良くない行動の学習もされます。

そして飼い主との関係性は良くないものに変わります。犬の笑顔は消えていくでしょう。

そこで。

「じゃあ、Eカラー(電気ショックカラー)や大きな物音をたてたり、飼い主がやってるって分からなければ良いんじゃないの?」

答えは、いいえ、です。Eカラーや物音を立てる時、飼い主はいつも近くにいます。その結果、飼い主と不快なものが結びつけられてしまいます。関係性は悪くなります。

実際行われた研究があります。Eカラーを使用したグループと、使用していないグループで犬の行動を比較した研究です。その研究では、Eカラーを使用したグループは恐怖と攻撃をなだめるシグナルが多く見えたという結果が出ました。

飼い主は不快な存在となっています。

​そして、Eカラーが使用された時に周りにあったもの全て、怯えるようになるリスクがあります。散歩に行けなくなる、なんてリスクも。

物音をたてるのは、物音に恐怖心を抱き生活に支障が出てくる恐れもあります。物音が鳴るたびにビクビクしていたら、多大なストレスがかかっているでしょう。

万が一、物音を人間がたてているのを見てしまったら。人が何かを持とうとすると噛み付こうとする、更に人の手が近付いてきただけで攻撃的になる、最終的に人間に対して攻撃的になる。このような多大なリスクを伴います。

体罰は更に危険です。闘犬は痛みを与えて攻撃性を引き出す方法があります。痛みは、アドレナリンが分泌され攻撃行動を誘発します。マズルを掴む行為も危険です。人の手に攻撃性が現れる恐れがあります。

罰を与え続ければ、何をやっても無駄だという学習性無力感に襲われ、なにもしない可哀想な犬になってしまう事もあります。

…その犬が生きる意味は一体なんでしょうか。人はなんのために犬を迎えたのでしょうか。

罰で行動を制御すると、罰をやめた時により元の問題が悪化する、というデータも明確に出ています。書ききれませんが、他にも山ほどリスクがあります。死に至るケースもあります。

「死ぬかもしれないけど一時的に行動が改善される薬」と「リスクはほとんどないけどゆっくり効いていく薬」あなたはどちらを選びますか?

罰を与えなくても、褒めて行動を改善する方法があるんです。リスクはほとんどありません。それならば、その方法の方が断然良いでしょう。

では、褒めるポジティブなトレーニングを行うとどのようなメリットがあるでしょうか?

まず、犬は自ら何かを考えて行動する、行動そのものが増え出来ることが増えていきます。飼い主との関係性は良い方向に変わります。褒められ、幸せホルモンと言われているセロトニンが分泌されます。

罰はストレスを増やすのに対し、提示型強化によるトレーニングは幸せな気分にまでなるのですから、どちらが好ましい方法かという事は一目瞭然でしょう。

更に犬は楽しんでトレーニングを行うことが出来るようになります。

イヤなことを避ける為に言うことを聞くのか、自ら喜んで飼い主の言葉を聞いてくれるのか、どちらが良いですか?断然、後者です。

更には報酬(強化子)があらゆるものと結びついていき、日常が大好きなもので溢れていく。素敵ですよね。

好ましい行動が起こる頻度も高め、犬は新たな行動を学習することでしょう。

攻撃性を引き出すようなデメリットはありません。​

そうして飼い主とコミュニケーションを取ることを楽しむようになり、好ましくない行動も改善されれば、楽しい犬との生活が待っています。

そもそも、何故人間は犬を従わせようと思うのか?いつから犬は人間に従う生き物というイメージになったのか?

​疑問に思ってみるのも良いかもしれません。

’幸せで満たされた犬’が増えるよう、私は日々活動を続けます。

​2020.2.2

​編集2024.29.9

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